ロート・ブルーメ~赤花~
「紅夜の母親はね、あたしにとって尊敬できる先輩だった。頭もよくてテキパキ動く人で……カッコ良かったわ」

 あたしからすれば叔母さんも十分カッコイイけどな……私生活以外は。


「紅夜を身ごもったって知ったときは驚いたけれど、まさか出産で亡くなるとは思わなかったわ。産んだ直後までは問題なかったんだもの」

 そのあとから出血が多くなり、病院側は適切な処置をしようとしてくれたけれど……ダメだった、と語る。


「そう、だったんだ……」

 そこまで詳しく知っているということは、その人の近くにずっといたってことだろう。

 そのまま看取って、そして紅夜の母親代わりもして……。


「本当に尊敬してたんだね。……それで紅夜の母親代わりもして……叔母さんはすごいよ」

 純粋にすごいと思っての言葉だった。

 でも、叔母さんの瞳が揺れる。


「あたしは、すごくなんかないわ。罪を犯してしまった……」

「え?」

「もう取り返しのつかない罪を……」

 その罪の重さに耐えるように目をギュッとつむる叔母さん。

 そんな彼女に、その罪の内容を聞くことは出来なかった。


「叔母さん……」

 ただ、呼び掛ける。

 でもその呼びかけで叔母さんは罪の意識から這い上がって来てくれた。
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