ロート・ブルーメ~赤花~
「でも、そうなるとちょっとうらやましいな……」

 ストローを回していじる日葵は、少し寂しそうに微笑む。

「美桜は好きな人に会いに行けたってことでしょ? あたしは……会えてないから」

「……愁一さんに?」

「うん。……ってかやっぱりバレバレだよね、あたしの好きな人」

「まあ、そりゃあね」


 危険な街に行ってまで会いたかったという相手。

 連絡先を交換して、会いに行くためのリボンも受け取って嬉しそうにしていたあの表情。

 どれをとっても愁一さん以外が相手だとは思えなかった。


「土曜も会いたいって連絡したのに、トラブルが発生したからダメだって言われちゃうし……」

「あ……」

 それは多分あたし達を襲った男が逃げ出したからだ。

 そのせいで、あたしも街を出されたんだから。


 話していいことなのか分からなかったから少し迷ったけれど、理由くらいは知っておかないと独断で街に行こうとしてしまうかもしれない。

 そう判断して、あたしはあの男が逃げ出して街中に潜伏してるからだと伝えた。


「え? そうだったの? そっか、それで愁一兄さんあんなに強く来るなって言ってたんだ」

 身内だからという理由かもしれないけれど、大切に思われてるのは事実だ。

 その事実に、日葵の口元がほころんだ。
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