ロート・ブルーメ~赤花~
***

 翌朝はスッキリ目が覚める。

 勉強をして頭を使ったせいか、昨日はただ抱き合ったまま眠った。

 おかげで朝から疲労困憊(こんぱい)とはならずにすむ。


 まあ、紅夜には寝る間際にキスの雨を降らせながら「明日は覚悟しとけよ」なんて言われたけれど……。


 朝食を作ろうと、紅夜の腕の中から出ようとするけど逆に抱きしめられてしまう。

 起きてるのかな? とも思ったけれど、どうやらぐっすり眠っているみたい。


 見上げた先に、普段より幼く見える紅夜の寝顔があった。

 スヤスヤと規則的な呼吸音が耳に心地いい。

 心地よくて、あたしはまたウトウトし始めてしまった。


 紅夜の花のような香りに包まれて、意識が沈んでいく。

 でも沈み切る前に紅夜が身じろいだ。


「んっんぅ?」

 意識をまた浮上させてもう一度見上げる。

 金色の軽やかなまつ毛がゆっくりと上がり、海のような青が現れた。


 ぼんやりとしていた瞳があたしをとらえたのに気付くと、あたしは幸福を覚えながら笑った。

「おはよう、紅夜」

「……ん、おはよう。美桜」

 寝起きで少しかすれた声で返事をした彼は、もう一度ギュウッとあたしを抱きしめる。


 ギュッとしながら思い切り息を吸っていたみたいで、腕の力がゆるんでいくと同時に息もゆっくり吐きだされていった。


「……幸せだな」

 噛みしめるように紡がれた言葉に、あたしはもう一度微笑む。

「あたしも、幸せだよ……」
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