ロート・ブルーメ~赤花~
「……ええ。この子を解放してくれるなら、大人しくする」

 震えそうな声で、それでもハッキリ言った。

 そうしないと、あたしの意見は通してもらえないような気がしたから……。


「……だそうだ。こっちの娘は離してやれ」

 冷酷な声音のまま、ニッコリ笑ったKに寒気が走る。

 でも、要望は通してもらえた。


「美桜……」

 不安そうな日葵に、あたしは今出来る精一杯の笑顔を見せる。

「大丈夫だから、日葵は逃げて?」


 正直、全然大丈夫じゃない。

 でも、日葵まで捕まってしまったら最悪の状況になるから。

 日葵に、助けを呼びに行ってもらわないとないから。


 だから、逃げて。


 きっとあたしの考えている事なんてこのKという人物にはバレバレだろう。

 それでも日葵を逃がしてくれるのは取るに足らないことだと思っているから。


 あたしにとっては分の悪い賭け。

 それでもしないよりはマシな賭けだ。


 だから……。

「日葵、行って。助けを呼んできて」

 バレているとは思うけど、念のため声をひそめて日葵に伝えた。


 ハッとする日葵は泣きそうな顔で「分かった……」と呟くように言うと走り去って行った。

 無事に離れて行けたか確認するように見送っていると、大柄な男が低姿勢になってKに「良いんですか?」と聞く。
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