ロート・ブルーメ~赤花~
 でも、紅夜は困ったように笑うだけだった。

「別に不幸だとも思わなかったけどな。縛られてはいたかもしれないけど、それと同じく守られてたわけだし」

「まあ、それはそうだけど……」

「それに、今はお前がいる」

 そうして、愛おしそうに見つめられた。


「……紅夜?」

「二年前、初めて会ったあの日。多分、俺はお前に恋をしたんだ」

「え?」

「初恋だったんだ、きっと」

 手が伸びてきて、髪を撫でられ、そのまま頬を包まれる。


「あの花がまさかあんな風に夕日で焼けてしまうとは思わなかった。そのせいでお前はあの日のことを忘れてしまった。……俺との約束も」

「……うん。ごめんね?」

「謝るな。あれは俺の不注意だ」

 強い眼差しで言われて、言葉に詰まる。


 あたしが記憶を失ったことは自分のせいだと、あたしのせいでは絶対にないと断言している様だった。


「だから、俺は初恋に蓋をした。自業自得で失った想いだから」

 そうして一度目を閉じた紅夜は、また優しい眼差しをあたしに向ける。


「蓋をした想いは、そのまま忘れるはずだった。でも、お前とまた会えた」

 お使いと称して月に一度あたしが黎華街に来ていることは知っていたらしい。

 でも、紅夜はもうあたしに関わるつもりはなかったから会おうとはしなかったんだと語る。
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