ロート・ブルーメ~赤花~

 分からない……けれど。

 どうしようもなく惹かれていることだけは分かった。


 金色に彩られた、美しい獣。

 感情が読み取りづらいアイスブルーの瞳。

 赤いピアスが彼の妖艶さを引き出し。

 唇から流れ出る透き通るような声は、あたしを惑わす。


 見れば見るほど、すらりとした狼のような人に見えるのに、どうしてあたしは花のような人だと思ったんだろう。

 そのイメージは今も変わらなくて、不思議な気分になる。


「ほら、こっちだ」

 そうして連れて来られたのは大通りの中ほど辺り。

 中央広場の様になっている少し開けた場所。

 その横の方にある路地裏に手を引かれ、あたしは少し足を止めた。


 黎華街の路地裏には入ってはいけない。

 さっき、入ってはいけない理由を身をもって体験したばかりだから、紅夜が手を引いてくれていてもためらってしまった。


 足を止めてしまったあたしに、紅夜は怒るでもなく優しい笑顔を向ける。

「大丈夫、怖いことなんてない。ここから俺の家に行けるんだよ」

 その優しさは、まるで狼が赤ずきんを花畑へと誘うときの様で……行ってはいけないのかもしれないと思わせた。


 でも……それを分かっていたとしても……。

 狼に惹かれてしまっているあたしは、その(いざな)いに乗ってしまうんだ。
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