ロート・ブルーメ~赤花~
『美桜、帰れたの?』
お母さんよりは落ち着いた声だったけれど、明らかに心配してくれている声音。
あたしは簡単に事の成り行きを話して口裏を合わせるように頼んだ。
『口裏を合わせるのは良いけれど……。結局あなた今どこにいるの?』
「えっと……」
少し迷ったけれど、そこは正直に答えることにする。
「紅夜って人の家」
『紅夜の!?』
その声音に少しの疑問を抱く。
紅夜のことを知っているような口振り。
この黎華街の支配人なんだから知っていて当然なのかもしれないけど、叔母さんの声はもっと近しい……直接の知り合いのような言い方だった。
でもそれを問い質すより叔母さんの声の方が早かった。
『まあ、紅夜ならあなたに乱暴なことはしないと思うけど……。あ、姉さんだわ』
キャッチでも入ったのか、叔母さんはそのまま『じゃあ、明日の朝になったらちゃんと帰りなさいよ?』と言ってすぐに電話を切る。
疑問は残ったけれど、とりあえず口裏は合わせてもらえたから良かったかな?
あたしはそのままスマホのチェックをすると、日葵からも着信やメッセージが届いていることに気付いた。
良かった。
ちゃんと帰れたみたい。
メッセージには、愁一さんに連れられて無事家に帰れたことと、あたしの安否を心配する言葉があった。