ロート・ブルーメ~赤花~
「凄く、綺麗だよ?」

 本心からの言葉だった。


 すると紅夜はふわりと優しく微笑み――。



「本気?」

 凶悪な程の獣の眼差しをあたしに向けた。


「っ!!」

 その変化に、あたしは息を呑み身体を硬直させる。

 口元は優しく(ほころ)んでいるのに、目だけは獲物を狙う狼のもの。

 ううん。下手をしたら、もっと凶悪な猛獣なのかも知れない。


 そう思わせる顔だった。


「綺麗って言ってくれるのは嬉しいけど……」

 そう言って繋いでいた手を引かれる。

 もう片方の手が、あたしの後頭部を掴んだ。


 冷たく、凶悪な目が楽しげな色を含ませてあたしを間近に見下ろす。

「美桜、お前さ……悪いオトコに引っかかった自覚、ある?」

「!? 紅夜は、悪いオトコじゃ――」

「悪いオトコだろ? この凶悪な街・黎華街の管理者だ」

「そっれは……」


 分かっている。

 分かっていると思っていた。


 でも、昨日会ったばかりのこの人のことをあたしはよく知らない。

 それをたった今思い知った。

 この人に全てを預けて、知った気になっていただけだってことを。
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