ロート・ブルーメ~赤花~

 そう、日葵に渡したのはドロップビーズで作った赤い花があしらわれたヘアクリップだ。

 バンスクリップではないから取れやすいのが心配だけど、これしかないなら仕方ない。


「大事なものだから、ちゃんと返してね?」

「うん、分かった」

「お願いね」

 と念を押しておく。


 これは、なかなか会えないお父さんが珍しく「美桜に似合うと思って」と出張先で買ってきてくれたプレゼントだ。

 身に着けるのですら何かもったいなくて、お守り代わりにずっと持ち歩いているもの。


 日葵が前髪を止めるようにそれを身に着けたのを確認して、あたし達は黎華街へと急いだ。


 赤に近付いてきた空は、夜闇が近いことを知らせていた。


 ……

 …………


 黎華街――暗くて華やかな街。

 そう初めに言ったのは誰なのか……。

 いつの間にかその名前が定着して、危険な街として知れ渡っていた。


 昼間でも危ないが、日が暮れるともっと危ない。

 そして、午後九時以降は無法地帯。命の危険を覚悟しなければならない。


 そんな街。


 そんな街の入り口には、いつも決まって見張り番の様に誰かがいる。

 スーツをキッチリ着こなした人だったり、着崩していたり。またはその辺にいそうなチンピラっぽい人だったり。

 共通するのはみんな不良やヤクザっぽい人ばかりだということだ。
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