ロート・ブルーメ~赤花~
それに、さっきのスーツ姿の男性の見ている前で黎華街に入っていくのは躊躇われたから。
なんて言うか……大人の目の前で悪い事をしようとしてるのを見られる様な……そんな気持ち。
「そうだ、本も返さなきゃだし」
すっかり忘れていたけれど、今日は図書館から借りていた本の返却日だ。
あれも返してこないと。
『本当は怖いグリム童話』というタイトルの本。
結局全部は読めなかったけれど、いくつか有名なものは読んだ。
その中には赤ずきんもある。
昨日紅夜はあたしを赤ずきんに見立てていたけれど、正直上手いなと思った。
おばあさんへのお使いのために狼のいる森に入る赤ずきん。
叔母さんへのお使いのために危険な街に入るあたし。
そして狼にそそのかされて花畑で寄り道をした赤ずきんは狼に食べられてしまう。
あたしはそそのかされたわけではないけれど、赤い花のヘアクリップを求めて寄り道してしまったってことだろう。
そして、狼の紅夜に食べられた。
昨晩のことを思い出すと、嫌でも体がほてる。
恥ずかしいけれど……焦がれてしまう。
……ああ、やっぱり会いたいな。
そう後悔を胸に、紅夜のいない夜を過ごした。