ロート・ブルーメ~赤花~
 彼らはいつもあたしが黎華街に入るとチラリと見るだけ。


 でも今日はあたしをチラリと見た後、日葵を見て軽く目を見開いた。

 ただ、それだけの事。


 でもその少しの異変が引っ掛かる。

 やっぱり日葵は連れて来ない方が良かったかな?


 そう思うけれど、今更ダメだとも言えないし言ったところで説得する時間も惜しい。


 とにかくいつもの道を急いで行き来するしかないだろう。


「日葵、一応手を繋ごう? あたしから離れないでね」

「う、うん」

 早くも黎華街の雰囲気に吞まれたのか、日葵は怯えながらあたしの手を握った。



 大通りの真ん中を日葵の手を引きながら真っ直ぐ進む。

 幸い叔母さんの住む家は大通りの突き当たりにある。

 脇道に逸れたり路地裏に入り込む心配はない。


 今日だって、日葵という予定外の人物はいるけれど真っ直ぐ進めさえすれば大丈夫なはずだ。



 ……大丈夫な、はずだった。


「っきゃっ!」

 あたしに手を引かれながらもはとこを探しているのか周囲に視線をやっていた日葵。

 そうして注意が散漫(さんまん)になってしまっていたんだろうか。


 大柄な男の人にぶつかってしまったらしい。

「す、すみません!」

 反射的に謝った日葵に、男は不愛想な目線を一つ向けただけでそのまま去って行ってしまった。

 あたしは大げさなほどに安堵の息を吐く。
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