あたしの知らないどこかのだれかが熱愛してきます。
 あのひと、の声は優しかった。
 はじめて聞いたのは、夢のなかだった。


「アリス。きみのことが好きだよ。いつもきみを見ているよ」


 穏やかで低く、聞き心地のいい声だった。
 耳をなでられるような、くすぐったい感じがした。
 

「ぼくはきみのとりこなんだよ。わかるだろう? きみは美しいし、素晴らしい女性だから」


 ――知らない。


 夢のなかで、あのひとに対して、つい素っ気ない態度をとってしまった。
 褒められすぎると、困ってしまう。


 ――出て行って。


 あたしは夢のなかで、あの人にそんな冷たい言葉を吐いた。
 恥ずかしくて、ついそう言ってしまった。
 あたしはそんな自分が嫌になって、走ってその場から去った。
 優しい声は追いかけてこなかった。
 ただあのひとが微笑んだような、そんな気がした。


 (どうして笑うのよ)  


 目が覚めて、ベッドの上で、あたしは枕に顔を埋めて、眉根を寄せた。
 理解できなかった。
 酷い言葉を言ってしまったのに、あのひとは怒らなかった。
 追いかけても来なかったけど、それはいったいどうしてなんだろう。
 たぶんびっくりさせてしまったからかも。

 
 そのまま二度寝したけど、次の夢のなかでは、あのひとの声は聞こえてこなかった。

   


< 3 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop