あたしの知らないどこかのだれかが熱愛してきます。
 あたしはキャンパストートバッグに分厚い重たいテキストを何冊もいれながら、
 大学へ行く準備をした。
 メイクポーチを持って、洗面台の鏡の前に立った。お化粧をしていると、だれかの気配を感じた。
 だれかがそばで見ているような。

 幽霊?

 嫌だな怖いな。

 そう思っていると、耳元で囁き声がした。


「綺麗だよ、アリス。リップグロスの色もきみによく似合ってる」

 
 (なに? どこで見てるの? だれ?)


「ぼくだよ。夢で会っただろう?」

 
 軽やかな笑い声がして、頬を優しくだれかになでられる感じがした。
「きゃっ」
 驚きのあまり思わず声が出てしまう。

「な、な、なにするんですか! そういうのやめてください!」


「大丈夫かい? ぼくのことを忘れないでね。
 今日も頑張ってね。応援してるよ。美しい人」


 
 洗面所の扉が開いて、ママが入ってきた。

「どうしたの? 大声なんか出して?」

「なんでもないの。大丈夫だから」

「ふうん。早く学校行きなさいね?」

「はーい」


 あたしは洗面所を後にした。
 あのひと、は本当は幽霊なのかもしれない。 
 幽霊って、頬に触れたりできるんだろうか?
 後でインターネットで調べてみよう。見つかるかどうかはわからないけれど。


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