彼は過去の彼に殺される
私は猛反対した。
彼が殺される事を。
私の為に、子供の為に、生きて欲しいと。

彼は言った。
僕が殺されなかったら君と出会えない。
僕は君と出会いたい。

僕が殺されなかったら君を救えない。
僕は君を救いたい。

こことは違う世界だとしても、そこに君がいるのならば、僕は何度でも君を救いに行く。

それでも私は反対した。
彼は息子を抱きしめて言った。
君を救わなければ、この子は存在しなかった。

ずるい人。
私は1人で、部屋に籠った。

彼はきっと殺される。
私を救うために。

ならば私は彼を救う。
彼を殺させない。

たとえ過去の彼の世界の私が死ぬのだとしても。
今の私達が消えてしまうのだとしても。

彼が死んでしまう世界に幸せなんてない。

私は部屋から出て彼に抱きついた。

私は言った。
残り僅かな時間しか無いのに、1人でいるのはもったいないと。

私は彼が殺される事を受け入れるふりをした。

彼は過去の彼に殺されない。
彼を殺させはしない。
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