彼は過去の彼に殺される
彼が殺される日。
一緒にいたいと言う私に彼は言った。

僕と離れた所にいて。
僕が殺すのを躊躇してしまうから。

私は焦った。
離れていたら彼を救えない。
私は彼から離れるふりをして、少しずつ近付くことにした。

歩いている彼に気付かれないように、後ろから少しずつ近付いていく。

彼は立ち止まった。
手に持った紙切れを確認すると、強く握り締めていた。

もうすぐ過去の彼が殺しにくる。

もっと近くへ・・・

その時、彼は私の方へ振り向いた。

突然の事で足が止まった。

私は彼に向かって微笑んだ。

大丈夫。
あなたを殺させはしない。

彼は私に向かって微笑んだ。
それは本当に・・・

本当に幸せそうな笑顔だった。

私は思った。

彼は本当に幸せだったのだ。

今、殺されようとしているこの瞬間にも幸せを感じているのだと。

彼は私を救うと言った。

私を救えて彼は幸せだと言った。

ここで彼が殺されなかったら、きっと彼は幸せにはなれない。

私は動けなくなり、胸を締め付けられ涙が溢れてきた。

彼は殺される。

彼は過去の彼に殺される。

彼の背後には死神がもう来ていた。

私は走った。

救うためじゃない。

彼に伝えるために。
私は彼に伝えなければいけない言葉がある。

倒れた彼に駆け寄りすがりついた。
嗚咽で言葉が出なかったけど、絞り出した。

「私も幸せだった」

彼はもう答えてくれなかった。

幸せな笑みを浮かべていた。

私の言葉はちゃんと彼に聞こえていただろうか?


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