最後の恋だと、笑って下さい。
「安倍時親。
安倍晴明の孫にして、安倍吉平の嫡男の時親。
よろしくね」

「時親、様……」

「うん。
よければ君の名前も……と言いたいとこだけど……。
女性の名前は夫と親家族にしか教えないんだったよね」

 時親は残念そうに言いながら、私にまた笑いかけた。
 そして、ひらり、と手を振り、扉に手を掛ける。

 あぁ、行ってしまう。

 時親が部屋を出て行こうとする寸前、私は。

「あの……っ!
千夏です!
私の名前……っ!
時親様、私の名前……呼んで下さい!」

 夫になるとか、そういったことは完全に無視して、私は叫んだ。
 ただ、呼んで欲しかったから。
 時親の優しい声で、誰にも呼ばれない形だけの私の名前を。
 そうすれば、私が私になれる気がしたから。

「千夏」

「……っ、はいっ!」

 時親が名前を呼んでくれたのが嬉しくて、嬉しくて。
 私は元気よく返事をして、時親へ満面の笑みを返していた────。





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