遠い思い
行為が終わると、無償に泣きたくなった。

彼と反対の方を向き、目をつぶる。




大丈夫・・・

大丈夫・・・・・・


何が『大丈夫』か、自分で言っててわからないが、
涙が零れないように、何度も心のなかでそう繰り返した。




大丈夫・・・・

大丈夫・・

私は大丈夫・・・・・・・・。



泣きそうな私に気づくことなく、彼は寝息を立て始めた。




・・・・大丈夫。




寝ている彼にメモを残し、私は彼の部屋を出た。

彼のアパートの前に立ち、彼の部屋を見上げる。




彼は気づいていないだろう。
私が隣にいないことも、私が彼に抱かれながら涙を我慢していることも・・・・。




深いため息をつき、家に帰るために街灯の少ない暗い道に向かって歩き出した。
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