探偵日記
第32話、エピローグ:探偵としての軌跡
「 尾行をしてみたい 」・「 張り込みって、面白そう 」・「 調査業務が好きだ 」etc…
探偵と呼ばれる『 特殊業務 』に、憧れ・興味を持つ人は多いことだろう。 異業種… 特に、調査業に対する立志は、万年、人材不足に悩まされている我々にとっては、大変に有難く思う。
だが、悲しいかな、調査業はそれだけでは成り立たない。 営業面での能力が、意外にも多く問われるのだ。
依頼者との折衝… それが全てである、と言っても過言ではないだろう。
基本は、社交的な性格。 そこから探偵という職業が始まる事を、まずもって記させて頂きたい。 一般的なイメージから想像される『 カッコ良さ 』だけを期待しているのであれば、悪い事は言わない、ヤメておいた方が賢明だ。
また、調査業は、裏社会に精通する事となり、必然的に『 そういった業界の人間 』とも関わりを持つ事となる。 当然、彼らと衝突する機会も増える訳だ。
そういった事態に遭遇した時、TVドラマ宜しく反撃していては、未来に大きな問題を残す事となる。
格好など気にせず、『 逃げるが勝ち 』が無難である。
従って、当初から彼らとは、いざとなったら『 姿を晦ませる事が出来るような付き合い方 』をしておかなくてはならない。
私も随分、危ない目に遭った。
刃物を手にした男たちに追われ、命辛々、路地裏を逃走した経験も何度かあり、『 彼ら 』に拉致され、組事務所に連れて行かれて監禁。 しばらくは音信不通となった事もある。 この時ばかりは、当時、婚約中だった妻には、大変な心配を掛けてしまった。
同じ、調査業の仲間の内、調査中に事故死した者、未だ行方不明の者、半身不随となってこの業界を去って行った者…… 片手では数え切れないのが現実だ。 既婚者には、絶対にお奨め出来ない業種であろう。 実際、家族の存在が、調査に弊害をもたらす事もあるのだ……
だが、色々な人生の機微を垣間見る事が出来た。
事実は、現実の結果であり、下した判断の余殃とも言えよう。 都合良く創作された経緯など、一切ない。 まさにノンフィクションの世界である。
現実を必死に生きる者の心には、世俗をも凌駕する、不動な信念を見出す事が出来る。
虚像に惑わされない、真実のみが語れる領域……
その『 真実 』の姿を、私は調査業務の中で、いつも追い求め続けて来た。 何故ならば、常に依頼者は『 真実 』を欲しているからである。 その純粋とも言える依頼に、どれだけ答えられるか……
見返りなどを期待してはならない。 ある意味、依頼者に、どれだけ親身になれるか、である。
探偵を主人公とした小説にしてみれば、シリアスあり、コメディーあり、はたまたハードボイルドあり、様々だ。 創作は、常に自由な世界にある。 探偵小説・ミステリー小説、どのコンテンツも、路線的には拒否される事は無い。
…だが、実際に、最前線で奮闘して来た私にとってみれば、全てが邪道である。
調査の世界に、カッコ良さなど無い。 …いや、『 要らない 』。
主人公が、若く美しい(何故、そんな設定でなければならないのか?)女性だったり、イケメン男性だったり、都合良く調査の道筋が立って来たり、整合性の無い、何を根拠に導き出されたのか分からない『 推理 』・『 推察 』が、そのまま結果となって行ったり……
とにかく、『 解決 』に向かって行くストーリー自体が、ナンセンスだと思う。
現実は、そんな生易しいモノではない。 …まあ、経験した事が無い方に、現実を知れと言うのは、酷な事かもしれないが……
とかく、こういった読み物には、閉口である。 『 事件解決ありき 』が、最初らお膳立てられているところが、昔から推理小説が、あまり好きでは無かった理由だ。 とにかく、『 都合 』が良過ぎる。 実際、本物の探偵に認められる探偵小説など、あり得ない事だろう。 つまりは、そう言う事なのである。
ただ、あくまで『 小説 』の中での世界を描いているのだから、作者の自由は尊重されなければならないだろう。
渋いルックスの主人公が好みであれば、それも良し、イケメン良し、都合の良い推理が冴え渡るのも良し、etc…
しかし、そんな創作モノなど、世には、掃いて捨てるほど存在する。 そのまた『 一部 』を新たに創造する事に、何の価値を見い出すのだろう……
まあ、基本的に、創作は自己満足の世界でもある。 マスターベーションの極致と考えれば、まさに作者の勝手である。
私的には、あまりにもシリアスな世界にいた為、現実以外の状況を容認したくないのがホンネ、と言ったところか……
仕入れの無い業種での、独立… その指針の先に、調査業という業務を見出した私だった。 実は、調査・探偵が好きだった訳では無い。
だが、結構、調査と言う業務にハマった。
色んな『 手 』を駆使し、あらゆる事柄・真実・事実を調べ上げる達成感…! 最高である。 何物にも替え難いものだった。
…しかし、どうしても情に流されてしまう性格が、何度となく業務履行に障害をもたらした。 探偵事務所の経営者としては、不向きだったと解釈している。 本文中にも、何度も出て来た心情だが、対象者・依頼者に同情してしまうのだ…
こればかりは、どうしようもない。 性格・人格までも変えるのは、私的には無理があった。 親身と同情は、全く違うものなのだ……
現在は、探偵調査の一線から退いている私だが、同僚の事務所からの依頼にて、面談などの営業、調査方法の立案・アドバイスなどを時々、プロデュースしている。 やはり、調査に興味を持つ者は、物静かな性格の者が多く、営業や依頼者との折衝は苦手としているらしい。 私の出来る範囲での手伝い・助言・提案などをさせて頂いている。
想像とは裏腹に、実に過酷な業務である調査業界…… しかし、取得した情報以外に得られた『 もの 』は、プライスフリーにて、大変に大きかった。 それは実際の経緯・結果だけに、迷う事なく頼れる選択肢だからだ。 これからの人生の岐路にて、ある意味、指標となり得る事だろう。
迷う事なく頼れる『 真実 』は、求めなければ、手にする事は絶対に出来ない。
それを取得する為に己の知恵を絞り、一見、不可能と思える現実を孤軍奮闘、何とかではあるが、可能領域へと変換して来た。 苦労・苦悩は多かったが、精一杯、努力出来た時を持てた事は、私の誇りでもある。
明日の未来、同じ道を追従する後輩たちの奮闘を、願って止まない。
『 真実を追究する者は、真実によって救われる 』
この作品を、調査業務遂行中に逝った、幾多の仲間たちに捧ぐ
夏川 俊
探偵と呼ばれる『 特殊業務 』に、憧れ・興味を持つ人は多いことだろう。 異業種… 特に、調査業に対する立志は、万年、人材不足に悩まされている我々にとっては、大変に有難く思う。
だが、悲しいかな、調査業はそれだけでは成り立たない。 営業面での能力が、意外にも多く問われるのだ。
依頼者との折衝… それが全てである、と言っても過言ではないだろう。
基本は、社交的な性格。 そこから探偵という職業が始まる事を、まずもって記させて頂きたい。 一般的なイメージから想像される『 カッコ良さ 』だけを期待しているのであれば、悪い事は言わない、ヤメておいた方が賢明だ。
また、調査業は、裏社会に精通する事となり、必然的に『 そういった業界の人間 』とも関わりを持つ事となる。 当然、彼らと衝突する機会も増える訳だ。
そういった事態に遭遇した時、TVドラマ宜しく反撃していては、未来に大きな問題を残す事となる。
格好など気にせず、『 逃げるが勝ち 』が無難である。
従って、当初から彼らとは、いざとなったら『 姿を晦ませる事が出来るような付き合い方 』をしておかなくてはならない。
私も随分、危ない目に遭った。
刃物を手にした男たちに追われ、命辛々、路地裏を逃走した経験も何度かあり、『 彼ら 』に拉致され、組事務所に連れて行かれて監禁。 しばらくは音信不通となった事もある。 この時ばかりは、当時、婚約中だった妻には、大変な心配を掛けてしまった。
同じ、調査業の仲間の内、調査中に事故死した者、未だ行方不明の者、半身不随となってこの業界を去って行った者…… 片手では数え切れないのが現実だ。 既婚者には、絶対にお奨め出来ない業種であろう。 実際、家族の存在が、調査に弊害をもたらす事もあるのだ……
だが、色々な人生の機微を垣間見る事が出来た。
事実は、現実の結果であり、下した判断の余殃とも言えよう。 都合良く創作された経緯など、一切ない。 まさにノンフィクションの世界である。
現実を必死に生きる者の心には、世俗をも凌駕する、不動な信念を見出す事が出来る。
虚像に惑わされない、真実のみが語れる領域……
その『 真実 』の姿を、私は調査業務の中で、いつも追い求め続けて来た。 何故ならば、常に依頼者は『 真実 』を欲しているからである。 その純粋とも言える依頼に、どれだけ答えられるか……
見返りなどを期待してはならない。 ある意味、依頼者に、どれだけ親身になれるか、である。
探偵を主人公とした小説にしてみれば、シリアスあり、コメディーあり、はたまたハードボイルドあり、様々だ。 創作は、常に自由な世界にある。 探偵小説・ミステリー小説、どのコンテンツも、路線的には拒否される事は無い。
…だが、実際に、最前線で奮闘して来た私にとってみれば、全てが邪道である。
調査の世界に、カッコ良さなど無い。 …いや、『 要らない 』。
主人公が、若く美しい(何故、そんな設定でなければならないのか?)女性だったり、イケメン男性だったり、都合良く調査の道筋が立って来たり、整合性の無い、何を根拠に導き出されたのか分からない『 推理 』・『 推察 』が、そのまま結果となって行ったり……
とにかく、『 解決 』に向かって行くストーリー自体が、ナンセンスだと思う。
現実は、そんな生易しいモノではない。 …まあ、経験した事が無い方に、現実を知れと言うのは、酷な事かもしれないが……
とかく、こういった読み物には、閉口である。 『 事件解決ありき 』が、最初らお膳立てられているところが、昔から推理小説が、あまり好きでは無かった理由だ。 とにかく、『 都合 』が良過ぎる。 実際、本物の探偵に認められる探偵小説など、あり得ない事だろう。 つまりは、そう言う事なのである。
ただ、あくまで『 小説 』の中での世界を描いているのだから、作者の自由は尊重されなければならないだろう。
渋いルックスの主人公が好みであれば、それも良し、イケメン良し、都合の良い推理が冴え渡るのも良し、etc…
しかし、そんな創作モノなど、世には、掃いて捨てるほど存在する。 そのまた『 一部 』を新たに創造する事に、何の価値を見い出すのだろう……
まあ、基本的に、創作は自己満足の世界でもある。 マスターベーションの極致と考えれば、まさに作者の勝手である。
私的には、あまりにもシリアスな世界にいた為、現実以外の状況を容認したくないのがホンネ、と言ったところか……
仕入れの無い業種での、独立… その指針の先に、調査業という業務を見出した私だった。 実は、調査・探偵が好きだった訳では無い。
だが、結構、調査と言う業務にハマった。
色んな『 手 』を駆使し、あらゆる事柄・真実・事実を調べ上げる達成感…! 最高である。 何物にも替え難いものだった。
…しかし、どうしても情に流されてしまう性格が、何度となく業務履行に障害をもたらした。 探偵事務所の経営者としては、不向きだったと解釈している。 本文中にも、何度も出て来た心情だが、対象者・依頼者に同情してしまうのだ…
こればかりは、どうしようもない。 性格・人格までも変えるのは、私的には無理があった。 親身と同情は、全く違うものなのだ……
現在は、探偵調査の一線から退いている私だが、同僚の事務所からの依頼にて、面談などの営業、調査方法の立案・アドバイスなどを時々、プロデュースしている。 やはり、調査に興味を持つ者は、物静かな性格の者が多く、営業や依頼者との折衝は苦手としているらしい。 私の出来る範囲での手伝い・助言・提案などをさせて頂いている。
想像とは裏腹に、実に過酷な業務である調査業界…… しかし、取得した情報以外に得られた『 もの 』は、プライスフリーにて、大変に大きかった。 それは実際の経緯・結果だけに、迷う事なく頼れる選択肢だからだ。 これからの人生の岐路にて、ある意味、指標となり得る事だろう。
迷う事なく頼れる『 真実 』は、求めなければ、手にする事は絶対に出来ない。
それを取得する為に己の知恵を絞り、一見、不可能と思える現実を孤軍奮闘、何とかではあるが、可能領域へと変換して来た。 苦労・苦悩は多かったが、精一杯、努力出来た時を持てた事は、私の誇りでもある。
明日の未来、同じ道を追従する後輩たちの奮闘を、願って止まない。
『 真実を追究する者は、真実によって救われる 』
この作品を、調査業務遂行中に逝った、幾多の仲間たちに捧ぐ
夏川 俊