御曹司社長は恋人を溺愛したい!
社長と呼ばれた人がこちらを見た。
それは―――雅冬さんだった。
う、嘘!大声を出しかけて、さっと下を向いた。
つかつかと近くにくるのが、わかったけど、マスクしてるし、眼鏡してるし、顔は見えないはずだった。
素知らぬ顔でごしごしとモップで床を磨いていたけど、冷や汗が額から流れたのがわかった。

「菜々子?」

なんでわかるのよおおお!

「菜々子だよな?」

嬉し気な声にがしたけれど、私は見てない、まだ。

「ち、違います。人違いです」

さっと顔を背けた。

「そんなわけあるか!気配でわかるんだよ!」

「気配!?」

ばっと、眼鏡とマスクをとられ、がしっと頬《ほほ》を両手で押さえられた。 

「やっぱりな」

勘が良すぎる。野性動物なの?
さっきまで苛立った顔をしていたのに無邪気に笑っていた。

「こんなところでどうした?」

「それはこっちのセリフです。宮ノ入の部長じゃなかったんですか?」
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