御曹司社長は恋人を溺愛したい!
腕を掴み、引きずり、部屋から追い出した。
しょせん、奥様の力と掃除で鍛えた腕力では勝てるわけがない。
部屋の前の和定食を素早く回収し、鍵をかけ、チェーンをかけた。

「よし!」

ぱたぱたと慌ただしく、リビングに戻ると、雅冬さんが立ちすくんでいた。
顔色がさっきよりはマシだけど、苦しそうだった。

「まだ具合、悪いですか?」

「大丈夫だ」

息を吐くと、ソファーに座った。

「情けないとこ、見せたな」

「いえ」

「小さい頃、従兄の瑞生に負けるたびに閉じ込められたせいで、いまだに」

すっと唇に指をあてた。  

「言わなくていいです」

私だって、言いたくないことくらいある。
青ざめた顔をした雅冬さんに辛い過去を思い出させるようなことはしたくなかった。

「菜々子」

ぎゅ、と抱き締め、髪が顔にかかった。
唇をうなじに這わせて

「病み上がりじゃなかったらな……」

と、雅冬さんがぼそりと呟いた。

「もう元気みたいなんで。とりあえず夕飯にしましょうか」

体を乱暴に押しやったのだった。
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