エリート外交官の激愛~秘密の一夜で身ごもった子ごと愛されています~
二歳児との交渉は一筋縄ではいかない
蝉の声が家の中まで入ってくる。
古いクーラーでは適温まで下がらず、夏の森尾家は暑い。
瑞希は海翔を子供椅子に座らせて、スイカを食べさせようとしていた。
海翔はスイカが大好きだ。
待ちきれない様子で大きな口を開け、ガブリ。
スイカの汁が海翔の顎を伝ったところでおしぼりを忘れたことに気づき、瑞希は台所へ戻ろうとする。
その途中、居間の壁に飾られている写真が視界に入り足を止めた。
(もう三か月以上経ったんだ。あの日の幸せの余韻がまだ続いてる)
写真は今春に撮ったもので、ウエディングドレス姿の瑞希とモーニング姿の潤一が並んで立ち、ふたりの前にタキシードを着た海翔が座って写っている。
瑞希がエンゲージリングを受け取った昨年の冬から結婚式まで、あっという間だった。
式場は都内の庭園が美しい教会で。
潤一の実家は北海道で、潤一が多忙だったこともあり事前に挨拶に行けず、彼の両親には挙式の当日に初めて会った。
現役の大学教授だという七十代の潤一の父と、優しそうな母。
兄がひとりいて、同じく北海道で弁護士をしており、その妻子もお祝いに駆けつけてくれた。
皆、気持ちのいい人たちで、瑞希と海翔を温かく受け入れてくれた。
式はコンパクトにしようと話し合い、親族の他は、親しい友人を数人だけ招待した。
その中に真野もいた。
結婚へ向けて背中を押してくれた真野には、深く感謝している。
その点では小堺も同じだが、出張中ということで欠席であった。
その欠席のハガキが届いた時瑞希が残念がったら、潤一にこう言われた。
『わざと出張の予定を組んだんだろう』
『どうしてですか?』