エリート外交官の激愛~秘密の一夜で身ごもった子ごと愛されています~
「毎日、多くの命が失われている。インフラ支援で派遣されている企業の社員は、比較的安全が保たれているが、個人ボランティアやジャーナリストは正直、どう守っていいのか……。結局、俺たちまで撤退になってしまった」

「守りたくても守れない。紛争地帯に赴任した外交官のジレンマだな。ま、今日は嫌なことを忘れて飲もう。布施の帰国祝いだ。まともな日本食も久しぶりだろ」


局や課単位での帰国祝いはやらない。

外交官は、日本と海外を数年ごとに異動するのが宿命だ。

出国も帰国も日常的なことなので、祝いたければこうして親しい者だけでやる。

小堺も布施と同じ冷酒を口にして、美しいさしの入った中トロの刺身に箸を伸ばした。

布施は松茸のてんぷらを半分かじり、小皿に置いた。

美味しいが気分が上がらないのは、帰国からずっと彼女の顔が頭をチラつくせいだ。

(森尾に会うのを楽しみにしていたんだが、まさか退職していたとは。情熱を持って仕事をしていたと思ったのにな。まだ二十代の森尾が、結婚を急いだ理由はなんだ?)

無言になってしまったら、小堺が首を捻った。


「覇気がないな。まだ時差ぼけか?」

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