君の隣にいたいから
そろそろ帰らなくては、と思いながら、もう1時間も経ってしまった。

仕事が終わらないのか、終われないのかもはや、よく分からない。

自分でも、キリのいいところでパソコンをパチっと閉じてしまいたいのだけれど、どうしてもダラダラとサービス残業してしまう。


そりゃ、男もいなくなるわな…

少し自虐的に考えていると、カチャリとオフィスのドアが開いた。

「あれ?中山まだいたの?」

「あ、お疲れ様です」

いつもオーダーのスーツを着こなして、こざっぱりとした髪型のイケメン。西野修司ニシノシュウジ。42歳。

一応、元カレである。

新入社員の頃、1年ほど付き合っていたが、見た目の今風な感じと違い、あまりにも男尊女卑の考え方に嫌気がさして別れた。


案の定、透子と別れたあと、女子力の高そうな歳下の女の子と結婚した。

今も彼女は専業主婦らしく、西野は毎日、愛妻弁当をぶら下げて出社している。

西野は「たまには、行くか?1杯」そう言ってビールジョッキを持ち上げる仕草をした。

なんの下心もないのは分かっている。ただ誰かと呑みたいのだろう。

透子は、仕事を終わらせるキッカケになる、と呑みを了承し、パソコンを閉じた。


__



「もうすぐ新入社員の研修終わって、配属されるらしいわ。お前の下にも可愛い男子くるぞ」

「へえ。男子ね」
透子はそう言って、ビールをぐいっと煽る。
40にもなると、学生上がりの子達は、本当に男子や女子に見えてくる。

彼等の後ろにキャンパスが見え隠れするくらいには。


「なんか懐かしいよなぁ、あの頃」

「ほんとにね」

透子が新入社員で配属された営業三課。二年先輩として西野がいた。

爽やかな笑顔。高身長。
スーツの着こなし。

見た目100点の西野に、あっという間に恋に堕ちた。

西野も透子を可愛がってくれて、飲み会のあとで、二人呑みに誘ってくれた。

そこからは、正にシナリオ通りの恋だった。

会社帰りに待ち合わせて、社内の人には秘密のデートをする。

そのあとは、休みの日に遊園地や水族館、映画にドライブ。そしてホテル。


最初は盲目的で、何を言われても笑っていられたが、西野がやたらと言う「女のくせに」とか「女ってのはさ」などと言うのが気になってきた。


それが透子に向けられた言葉ではなくても、なんだかモヤモヤした気持ちが消えなくて、だんだんと冷めてきてしまった。

―――

「子供、何歳になった?」

ノスタルジックな感情を押しやって透子は聞いた。

「ん?上が8歳。下が5歳」

「娘ちゃんだっけ?」

「そうそう。もう最近は、上のが煩くてさ、母親そっくり」

西野は目尻を下げる。

「可愛いんだね」

「うん、可愛いよ、娘はね」

なんだか意味あり気に西野が言う。

透子は、今までも何回か既婚男性から誘いを受けたことごあるので、知っている。

嫁とはあまり上手くいってませんアピール。

そう言って独身女性を口説くのだ。

その手には乗りたくないので「私も若い彼氏欲しいわあ!」と大袈裟にアピールした。

「その入ってくる男子、どんな子かなあ?」

大して興味もないが言ってみた。





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