僕の歩く空
いつもと変わらぬ、冬のある日、東京といっても、やはり冬は寒く、暖かい秀司の部屋で、早苗と僕はジグソーパズルをしていた。

それは、色とりどりの花が咲き、風船を持った女の子と男の子が、自然の中で楽しそうに遊ぶ姿が描かれているものだった。

母がくれたもので、出来上がってくる絵をみているだけで、暖かな春にいる感覚で、僕たちは完成を楽しみにしていた。

「さなえ、セーターの袖まくれよ、パズルのピースがひっかかるだろー。」

「…。」

早苗はパズルの手を止め、ぽろぽろと涙を流しだした。

驚いた僕は、早苗の肩に手を置き

「さなえ、何泣いてるんだよ、袖まくるのがいやならいんだよ、何か理由があるのか?」

僕は、早苗が泣く所を見るのは久しぶりだった。
小さい頃のケンカをした以来だった気がする。

早苗はしばらく泣いていた。
そして、腕をまくり僕に見せた。

僕は息を呑んだ。


早苗の手首にはぐるりと紫色のアザがあり、色白の早苗の腕を締め付けていた。

「どうしたんだ、痛いだろ。」

僕は涙を流しながら、早苗の腕をそっと撫でて言った。

「父さんなのか?」

早苗は下を俯いたまま、ボダボタと涙を落としていた。

父さんは早苗を縛りつけていた。
縛り付けて、その後、何をしたのか分からない。

早苗には聞けないし、何かあっても答えないだろう。
僕は自分の部屋にその日の夜、鍵をつけた。

早苗は僕の部屋で眠り、僕は早苗の部屋で眠った。

< 8 / 21 >

この作品をシェア

pagetop