僕の歩く空
夜中、二時すぎだった。
外は雨が降っていた、冬なのにめずらしかった。


部屋のドアが静かに開いた。
ブランデーの匂いだ。
父は、時々かなりの量の酒を飲み、酔っ払う時がある。
その日もそうだった。


父は酒の匂いをプンプンさせて、ベットにいる僕に近づく。

僕はその匂いにむせそうになるが、グッと堪えた。


父はベットのすぐ横にしゃがみ僕の腕を探る、腕を掴むと、紐のような、布のようなものでグルグルと縛り、枕元のベットの柵と繋いだ。片手は自由だったが、何とも言えない恐怖で、固まってしまっていた。
と同時に、早苗の事を想うと悲しみの方が勝っていて、それでも僕は、事実を知るため早苗と同じ苦しみを知るため、寝たふりを続けた。

父は僕に気付いていなくて、今度は僕のズボンを脱がそうとしてきた。

頭が真っ白になりそうだった。

そんな…。

やめてくれ…。

ガチャ。
ドアが開く音がした。

「おかえりなさい、お父さん。」

早苗だ。
なぜ来たんだ、早苗逃げろ、来ちゃダメだ。

僕は心の中で叫んでいた。
早苗に指一本だって触れるな、それ以上近づくな。

「何をしてる。」

父は低く擦れた声で言う。
「さなえ、ふぅ、お前、何してる。」

「今夜はお兄ちゃんと部屋を交換したのよ、あたしが本を読みながら、お兄ちゃんのベットで眠ってしまったから。でも、今目が覚めたわ。」

早苗の声は毅然としていた。力強く、恐怖は感じていないようで。

父は僕の腕に巻いた、紐をスルリと外した。
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