最初のものがたり
開いたままのドアからしれっと中に入った。

みんな、バスケをしていた。
そっとバレないように仲間に入る。

良かった、先生にバレてない。

「ナナミ、やっと起きたんだ」

最近、仲良くなった前の席の
サナちゃんに言われた。

「なんで起こしてくれなかったの」

ふくれる私にニヤニヤして

「え、何回も起こしたんですけど。
ナナミ、全く動かないし、
なんか嬉しそうな顔してたから寝かしてあげた」

嬉しそうな顔か。

でも会えなかったんだよね。

授業が終わり、先生に体育委員が呼ばれた。

陰気野郎がチラっと私を見て鼻で笑った。

本当、感じ悪い。

話しかけんなって言うなら
私の事も無視して欲しい。

「木下、どうした?
遅れて来たよな。体調不良か」

そう先生に聞かれ、それに乗った。

「はい、すみません。」

先生は優しくて

「おお、お大事にな」

そう言ってくれた。
陰気野郎がまた私を見下した目で見る。

「体育測定の結果を配るから、
あとで取りに来てくれ。
あと来月の球技大会でバスケやるよな、
その時にデモンストレーションで、
各体育委員のシュートショーするからよろしくな。
まぁ軽いお楽しみみたいな感じだ」

ガハガハ笑う先生!

シュートショー?

何ですか、それ。

「いや、だから、体育委員がさ、各々、
カッコよくゴール決めてみせてくれればいいんだよ。
リレー形式にどんどん回るからさ
緊張せずに楽しめ、楽しめ。
まぁ、外す奴もいるけどリトライしても
ゴールすればいいから。」

じゃあよろしく!と先生は帰って行った。

え、私、自慢じゃないけど、
あのカゴにボールが入った事がない。

どうしよう。

体育委員が運動神経いいなんて、
誰が決めたんだ!

青くなる私をよそに、
陰気野郎はさっさと背中を向けて
教室に戻って行った。

陰気野郎は確かバスケ部だ。

コイツは華麗にゴールを決めるんだろうな。

なんか悔しい。

中2病の陰気野郎になんか負けたくない。

練習しないと。

でもどうやって。

考えてる暇はない。

思いつく限りの事をしようと思った。

まずは目から。

毎日バスケ部を見学しよう。

あとは実践。

帰りに公園のバスケゴールで少し練習。

あとあと、そうだ、昔、漫画で見た。

サッカー少年がいつもボールを持って生活してたやつ。

さすがに学校まで持ち歩いてたら怪しいけど。

家ではバスケットボールを側に置いておこう。

先生に許可をもらい、ボールを1つ借りた。

「なんだ、お前、気合い入ってるな。
期待してるぞ」

お門違いな期待をされ、追い込まれた私。

ネットでバスケゴールの動画も見ないと。

ヤバイ。

運動、もっとしておくんだったな。

教室に戻り席に着く。
私の大きなため息に陰気野郎が腕組みをしたまま、チラっと見た。

お、見た!

「あの、工藤くん?
工藤くんってバスケ部だったよね?」

出来心で声をかけた事を、ものすごく後悔した。

その目に軽蔑というか汚い物をみるようなそんな嫌悪感が浮かんでた。

「だから何?チャンスだとか思った?
残念だったな、俺はそんな事に乗らない」

うん?

チャンス?

残念?

また頭がハテナでいっぱいだ。

この人はまともに話ができないんだな。

質問と答えが合ってないと思うのは私だけ?

「あのさ、工藤くんって国語苦手?」

私の質問にあからさまに、
敵意むき出しの視線を投げつけ、
そのまま話しかけんなオーラを出した。

「苦手なのか」

悔しいから、それだけ呟いといた。

でもこの人、大丈夫なのかな。

コミュニケーション苦手。

なんか話が通じない。

いつも不機嫌。

何か大きな問題を抱えてるのかな。

ツバサくんが言う通り、本当に病気なのかな。

優しく、か。

そっか、そうなのかもしれない。

こんなにこじらせるんだもの、
ツライ家庭環境とかかも?

でも。

そうだとしても。

ツバサくん、この人、どうしたらいいと思う?

私、苦手だ。

というか、嫌いかもしれない。

いや、大っ嫌い!
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