最初のものがたり
観覧車。

夕陽。

勇磨と見た夕陽が蘇る。

鮮やかな夕陽。

あの観覧車に今度は南さんと乗るの?

南さんの手を取って抱き寄せて、
心臓の音を聞かせながら夕陽を見るの?

嫌だ!

必死に自分を落ち着かせる。

考えない。

聞こえない。

ケンカは買わない。

泣かない。

ダメだ。

バケツを水道に投げ走った。

「何?超、乱暴!」

南さんが叫ぶ。
この場から逃げたい。

「ナナ」

勇磨に腕を掴まれた。
涙が溢れる。

「泣いてるの?何で?」

顔を背けて勇磨を見ないようにした。
勇磨は更に質問する。

「何で泣くの?ナナ?教えて。」

それは、分かんない。
そんなの、分からない。

「じゃあ、アイツらと何してるの?
いつも一緒にいるよね?
俺には言えない事?」

それは。
言えない。
みんなとの約束だから。

「ごめん」

それだけ言って勇磨の手を振りほどいた。

逃げなきゃ。早く。

これ以上、聞かれたら話しちゃうかもしれない。

階段を駆け上がり、
私の避難所の屋上を目指す。

廊下の角を曲がった所で、
誰かに腕を引っ張られ、
その胸に抱き寄せられた。

「ちび、どうした。何があった?」

顔を上げるとトモだった。

「真っ青だな。それに泣いてる」

そう言ってから何かに気付き、
顔つきが変わった。

「またお前か」

トモの声に振り返ると、
勇磨が息を切らして立っていた。

「ナナを離せ」

勇磨の声が響く。

トモは私の頭を自分の胸に押し付けて、
勇磨を見えないようにした。

「ダメだね。俺が今ちびを離したらお前また傷つけるだろ。
なんで泣かすんだよ。言ったよな、俺。
女に当たるなって。
八つ当たりなら他でやってくれ。
ちびは俺の大切なパートナーだ。
俺はこいつを守る義務がある。
ちびを傷つける奴は許さない」

勇磨の表情が分からない。

しばらくしてトモの腕の力が緩み、
顔を上げ振り返ると勇磨はいなかった。
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