最初のものがたり

まだ暗い気持ちのままの私に、
ため息をつくトモ。

ごめん、また平常心、できなかった。

泣いた。

でもケンカはしなかった。

「ちび、いい?お願いだから、
体は大事にして。」

体?何のことだ?

意味が分からずにいる私に、
またため息をつく。

「だから、むやみに走ったり、
階段を駆け上がったりしないで。
走る時にはストレッチをする事。
今、ケガしたら全てが無駄になる。
分かるよね。
ちびだけの体じゃないんだよ」

思わず吹き出した。
でもトモは真剣だ。

「ごめん、私がプロ意識なかった。
これからはストレッチしてから走る。
約束する。階段は駆け上がらない」

トモは納得して頷いた。

よし、じゃあ歩いて階段を上がろう。

「ちび、どこ行くの?」

私はニヤっと笑った。

トモと2人で屋上に出た。

ちゃんと外から窓が開かないように細工して。

「ちび、すごいな。
悪い事ばっか覚えるのな。
まぁでも俺も今、踊りたい気分だった」

私も。

クサクサしてる。

バカ勇磨!

南さんと、どこでも行けばいい。

私の大切な思い出の観覧車も、
南さんと乗ればいい。

ヤダなんて言えないもん。

彼女でも、ないし。

勇磨はもう私の事は、
好きじゃなくなっちゃったんだから。

勇磨なんて大っ嫌い!

なんで信じてくれないの?

もう、本当に忘れよう。

勇磨に振り回されるのは、もう嫌だ!

私にはダンスがある!

トモとペアのパートを何回も練習した。
リードしてくれるトモに身を預けて信じて。

トモの言葉を聞いて。

心が重なるのを感じる。

友達でも恋人でもない。

そう、ダンスのパートナーだ。

私達のダンスをトモは全力で守ってくれる。

私も応えないと。

勇磨や南さんに翻弄されてる場合じゃない。

すぐにブレる私。

トモが必要だ。

心をダンスでいっぱいにしたら、
不思議と落ち着いた。

踊り過ぎた。

もう人気のない教室がほとんどだ。

早く帰ろう。

「ちび、送るよ」

トモが言ってくれたから、
教室にカバンを取りに戻った。
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