最初のものがたり
私、ダンスをやめなくていいんだ!
嬉しい!
「なんだよ、あからさまに喜ぶんだな。
あー。仕方ねぇな。
ガキ呼ばわりされたままじゃ悔しいし、
好きな子の夢を応援できるデッカイ男になるか」
もう一度勇磨に抱きついて、
今度は私からキスをした。
勇磨が驚いて私を見る。
「ありがとう!
私、必ず話すから。
私の夢を勇磨に見せたいんだ。
その為に始めたんだから。
勇磨との約束も守るから」
途端に嫌な顔をする勇磨。
「そうだな。約束な。
ナナ、俺との約束、破ったよね?」
破ったっけ?
「夜は出歩かない。男に触らせない」
あーあ、あれね。
でも、それは混みのダンスだからな。
それ言ったらまた怒らせるかもしれない。
固まる私を優しく抱き寄せる。
「いいよ、ナナを信じるから。
というか、アイツに釘刺すから」
勇磨!
ありがとう!
さぁ、トモを追いかけよう。
走り出そうとしてハッとする。
そう、ストレッチね。
体をほぐし、筋を伸ばす私を、
不審な目で見つめる勇磨。
「ナナ、また変な踊りはじめんのな。
それ何なの?学校でもやってたよな。
ふざけてんの?」
変な踊りって!
「ストレッチなんですけど!
トモにいきなり走ったり、
階段駆け上がるなって注意されたの。
体を温めてからにしろって。
今はケガできないから」
ふーん。
そう言って私のストレッチを、
じっと見ては時々吹き出す。
「俺さ、さっき、
ナナを抱きしめた時に気付いたんだけど、
前はぷにぷにだったのに今は結構、
筋肉で硬くなってんのな。
男と抱きあってる気分だったよ」
は?なんて?
ヒドイ!
私の努力の結晶のしなやかで、
強靭なボディを!
なんて言い草!
怒る私にケラケラと笑う。
「嘘だよ。ただ驚いたのはホント。
俺がイジイジしてる間に、
ナナが頑張ってた事は分かった。
さ、もう行け」
もう一度背中を押してくれた。
その反動で私は駆け出し、
でもすぐに戻って勇磨に抱きついた。
「ねぇ、やっぱりやだ!
もう少し一緒にいたい!
トモ達と合流するのは明日以降じゃダメかな」
そう言う私の髪をくしゃくしゃにし、
目をつぶって込み上げる思いを抑える勇磨。
「うーじゃあ5分だけ。
5分だけイチャイチャしようか。
本当、5分だけだぞ」
ちょっと上から目線の勇磨にカチンとくる。
なんだ、その態度は。
まぁでもいいか。
今までのモヤモヤが、重い気持ちが、
嘘のように溶けてなくなった。
勇磨がポケットから何かを出して、
髪に留めてくれた。
触って気がつく。
あのヘアピンだ!
「俺が初めて女にあげたプレゼントを、
投げつけんな」
勇磨が好き
勇磨も私が好き。
こんな幸せがあるなんて。
残り5分を勇磨の腕の中で過ごした。
よし!文化祭まであと少し、頑張るぞ!