最初のものがたり
まだ息の荒い勇磨は、
この状況を把握できていない。
私の肩を引き寄せて、
ツバサくんの目の前で、
ぎゅっと自分の胸に抱いた。
そんな勇磨に女の子達が悲鳴をあげる。
その騒ぎにツバサくんがキョロキョロする。
悲鳴が罵声に変わり私に向けられた。
それでも、にやけが止まらない。
「勇磨、どうしたの?痛い。離してよ」
私の問いにちょっと睨んで答える。
「やだ。離さない」
また女子達が悲鳴をあげる。
ヤバイ、もっと誤解して!
「ナナが見えなくなったから、
クラスの奴に聞いた。
北高の男と出て行ったって言うからさ。
ツバサだってすぐに思って連れ戻しに来た」
クラスの奴って南さんだよね、きっと。
あの情報屋。
ナイス、南!
「でもよくここが分かったね。」
私も意地になって聞いた。
案の定。
「なんか詳しくルート教えてくれた」
南さんは何をしたいの?
「ツバサ、諦めろ。ナナはダメ。
俺はナナを誰にも渡さないって決めたんだ。
お前と争いたくない」
女の子達がまた騒ぐ。
うるさいな。
勇磨の声がよく聞こえないじゃん!
「うるさい、どっか行って」
私の声に女の子達がひるむ。
勇磨が「怖ぇー」と呟いた。
ふんっ。
「あのね、工藤、誤解だよ」
ツバサくんが必死に否定してくれた。
(もう少し遊びたかったけど)
「違うんだ。練習してたんだ。
カスミちゃんとケンカしちゃってさ。
好きだって言えないのが原因だからさ、
なぁなに練習台になって貰ってたの。」
なんで、ナナで練習なんだよ。
他でやれよと納得しない勇磨。
「おれも工藤みたいに、
ストレートに気持ちを言えたらな。」
そう言って勇磨を羨む。
確かに勇磨は、
気持ちをストレートに伝えてくれるけど。
でも、見てよ、あの女子達!
朝から女子に囲まれて、
私なんて近付けなかったんだから!
急に沸々とヤキモチが溢れ出る。
私は勇磨の腕を振りほどいた。
「勇磨、もう分かったでしょ。
勇磨はあの子達と写真でしょ。
私とは撮らないのに」
最後はちょっとむくれた。
撮るって約束したのに。
「あの子達連れて教室に戻れば?」
私って小さい。
ヤキモチに支配されてかわいくない。
「は?」
そう言って勇磨も怒る。
「ほら、練習でしょ。
ツバサくん、私の事、好き?」
勇磨を無視して練習を始める。
ヤキモチが体を支配して止まらない。
でも今日の勇磨は、
私のケンカを買わずに受け止めてくれた。
私とツバサくんの間に入り、
私を引き寄せ目を覗き込む。
「ダメだよ。練習でもだめ。
ナナに好きって言うのは俺だけだし、
ナナに好きか?って聞かれるのも俺だけ。」
至近距離で、そんな事を言われて、
もう、ドキドキを通り越して爆発だ!
横でツバサくんが赤くなって見てる。
それでも勇磨は止まらない。
「なんでそんなに怒ってるの?
あーあれか、
俺が朝から女の子達に囲まれてるからか。
ナナを放っておいたからか。
だったら言えば良かったじゃん。
勇磨、寂しかったって。
そしたら俺、ナナのそばにずっといたよ」
ばっバカ!
そんな事恥ずかしすぎる。
でも勇磨の目は真剣だ。
でも、一緒にいたい。
「勇磨、さ、寂しかった」
その言葉に、
勇磨はよしよしと納得して、
頭を撫でてくれたけど、
ファンの皆様は大絶叫!
「キモ」
「ウザ」
「ブス」
なんなの、勇磨のファン!
「ウザイのはそっちでしょ。消えて!」
思わず怒鳴るとまた騒ぐ。
「何あの暴言女」
「ゴリラみたい」
「ブスゴリラ」
爆笑する勇磨め、許さん!