最初のものがたり
笑った!
早起きしてるせいか最近はものすごく眠い。
工藤くんの特訓はなんだかんだで4日目だ。
なのにまだシュートが決まらない。
手首がガタガタで痛みが日々増していた。
「変なシュートするからだ」
そう言って工藤くんは、
私の両手首にテーピングをしてくれた。
このところの練習で、
工藤くんへの印象は少し変わってきた。
相変わらず性格も口も態度も悪いけど、
優しいところもある。
まぁでも、それよりも、だ。
とにかくあと1週間でゴール、
決めないと。
だけど今は眠い。
また、ウトウトし始める。
ヤバっこの感じまた、体育の授業、
次な、の、に。
そこからまた記憶が途切れる。
ツバサくんの優しい声が聞こえて必死に探す。
雲の上にツバサくんが立ってる。
早く、好きって言わないと。
返事、聞いてみたい。
目が覚める前に。
これは夢って分かってる。
分かっていて告白の返事知りたい。
―ツバサくん、あの―
なかなか好きって言えない。
ふわふわの雲を綿菓子のように、
ニコニコで食べるツバサくん。
―おいしい?―
そう聞いて、違う違うし。
好きだって言いたい!
―あのね、ツバサくん、す、す―
言えない。
見つめるだけだ。
ツバサくんが私を見つめる。
そんなに見つめられると。
緊張Maxなその時。
「バカか。寝ぼけんな」
ツバサくんに暴言を吐かれ、
頭をポカンと殴られる。
嘘、ツバサくーん。
そのまま目を覚ました。
辺りを見回してまた寝過ごした事に気がつく。
また体育に遅刻だ。
「早く着替えて来い。また遅刻したいのか」
その声に振り返ると工藤くんだった。
「あ、起こしてくれたのか」
ありがとうとお礼を言って教室を出た。
「今日は言わないの?
中2病の陰気野郎って」
思わず振り返った。
「私、言った?それ。」
腕組みをしてドアに持たれかかり、
こっちを見て呆れた顔をする。
「ああ、この前寝ぼけてた時に」
焦った。
中2病とは本人に言った事はある。
だけど陰気野郎まで言ったのか。
そういえばそんな夢見た!
あれは夢じゃなかったのか。
「あの、いや、ごめん。言うつもりなくて。
つい、心の叫びが出ちゃってた、というか。
朝練やめるとか言わないよね?」
次の瞬間、目を疑った。
あの陰気野郎が。
無表情で怒りの感情以外、
妹に取られた可哀想な子が大爆笑していた。
目に涙を溜めて。
しばらく目が離せなかった。
発作とか?
「ね、あの、大丈夫?保健室行けば?」
更に笑う工藤くん。
涙を拭いてもたれていたドアから体を起こす。
「木下って、ヤバイな。というかヒドイな。
中2病の陰気野郎って。
あとなんか言ってたよな。
国語力ないコミュニケーション能力ゼロとか?
勘違い男ともな。あと、スパイ活動な。
そっか、そっか、アレ、全部、本心だったんだな。
俺、木下の中で相当ヤバイ奴になってるんだな」
まだ笑ってる。
いやいや、あなたこそ、
本格的にヤバイ奴ですってば!
とりあえず着替えて体育館に行こう。
触らぬ神に祟りなし。
あの人、感情の起伏が激しい病気なのかな。
そんな病気あるんだろうか。
今度、ツバサくんに聞いてみよう。
あ、そういえばツバサくん、どうしてるんだろう。
今日、電話してみようかな。
そんな事を考えながら体育館に走った。