最初のものがたり
「なんだ、アイツら。」

なんか、やり込められてる勇磨、おもしろい。
お姉さんと妹には弱いのか。
しかし、あの2人は天使だ。
今も2人のいい匂いが残ってる。
しかも。

「またリノさんにぎゅーってしてもらえた。
あー元気出たなぁ。
勇磨と友達になって良かった。」

リノさんの柔らかい腕を思い出す。
ふんわりいい匂い。

「俺の存在価値って。」

スネる。

「ナナ、前も言ったけど、
アイツらと俺、結構、顔、似てるんだぜ。
言われるし。
リノに抱かれて喜ぶって事は、
俺にも抱かれたいって事だろ」

はだけたシャツから肌見せしながら、
両腕を広げる。

は?

バカなの?

「俺に抱かれたいって言っちゃったら、
意味が違うのでは?」

不覚にもドキッとしてしまった事を、
隠すようにツッコミを入れたけど、
想像以上に勇磨がうろたえた。

「いや、バカ、違うって。
そういう意味じゃ。
ナナがリノに抱かれて、
じゃなくて抱きしめられて。
あー。うるせっ。ナナ、ウザイ」

は?は?は?

なんで?

なんで、そうなるの?

自分で言ってうろたえてるくせに。

おもしろい。

散々、肌見せで私をからかった罰だ。

仕返しだ。

「あー、勇磨が私に抱きしめられたいのか。
いーよ、おいで、ほら」

両手を広げてみる。

「お前」

自分の頭をクシャクシャにかいて、
イライラと何かを混ぜたような顔をする。

「もうっ。私をからかわないでよね。
男兄弟いないし、こっちは免疫ないんだし。」

ちょっと諦めたように私を見た。

「はーい」

おとなしく返事をする。
いい子だ。

少しまた話して勇磨が家まで送ってくれた。
帰り際に

「1人になってまた泣くなよ」

そう言われた。

言われて気が付いた。

今日、ほんの少し前の事なのに、
泣いた事忘れてた。

ツバサくんとカスミちゃんの事で、
頭がいっぱいだったのに忘れてた。

勇磨がいるとアホだから笑える。

ツライ事も薄くなる。

それ以上に勇磨が笑えるから。

土曜日の映画は気が重いけど、
勇磨が一緒なら大丈夫かもしれない。

ツラくても、その後、笑えるかも。

良かった。
勇磨が一緒で。

存在価値あったよ、勇磨。
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