最初のものがたり

驚いて見上げると勇磨が私を抱えて、
ツバサくんを睨む。

うわぁ、降ろして。

足をバタバタして慌てる私をグッと持ち上げる。

「暴れんな、バカ、落とすぞ」

息を切らして私を見る勇磨は、
焦って見えた。

本気で落とされそうだ。

それは困る。

大人しく勇磨の首に腕を回してつかまった。

「工藤、今、帰り?」

ツバサくんの問いを無視する。

「ツバサ、お前、
ナナに何しようとしてたんだよ。
答えによっては殺す」

殺すって、大袈裟な。

ツバサくんはキョトンとして答えた。

「スクワット」

今度は勇磨がキョトンとする。

「なんだ、スクワットって」

ツバサくんがジェスチャーする。

「こうやって、
なぁなを抱えてスクワットして鍛える」

ツバサくんを睨みつけてた勇磨が、
堪えきれずに笑い出した。

「ツバサ、ナナの体重じゃ負荷にならないだろ。」

ツバサくんも考え込んで納得した。

「俺が負荷になってやるよ」

そう言ってから勇磨は私をベンチに座らせ、
自分がツバサくんにお姫様抱っこされる。

な、なんなの?

この状況は!

ツバサくんはヒーヒー言いながら、
勇磨を重石にスクワットする。

勇磨も真剣に回数を数えてる。

何、この面白さ。

SNSに投稿したい。

ついに根をあげて座り込むツバサくん。

「あーダメだ。もっと鍛えないとな。」

その姿を見てふと、気がついた。

ツバサくん、私の事、
本当に重石としか見てなかったんだな。

悲しいなぁ。

ツバサくんは帰り際に勇磨に手をあげる。

「じゃあな、工藤。また重石になってよ。」

後姿を見送りながら、
自分の存在意義を考える。

ツバサくんの中で私って何なんだろう。

「アイツ、ヤバイな。話が通じない」

私の頭に手を置きながら
ツバサくんの後姿を見送った。


ベンチに座って、
自分の髪をグチャグチャにしながら、
頭を抱える勇磨。

「どうしたの?」

私の問いに

「ああいう奴だから、
彼女が出来てもナナは、ほっておけないんだな。
お前が泣けないのは関係は変わらないからで、
ナナは何かあれば、
ツバサを助けようと気を張ってるから、
違う?」

違わない。

だけど、違うとこもある。

言わないけどね、だけど、本心は別にある。

「ナナはどうしたい?
今からでもツバサに告って奪いたいって、
言うなら俺は…」

そこまで言って、
私の手を引き横に座らせる。

真剣な瞳に見つめられて、
この状況が耐えられなくなった。

立ち上がって言った。

「ツバサくんの事は大好き。
変わらない。消えない。
だけど友達になれるように頑張る。
ツバサくんがカスミちゃんを好きで、
幸せなら私には壊せない。
友達として見守りたい」

勇磨はちょっと納得いかないという顔をする。
何か言いかけて、でもやめた。

なんだよ、言いたい事あるなら、
ハッキリ言えばいいのに。

ちょっとふてくされる私の手を、
また引いて座らせた。

「分かった。
ツバサと友達でいられるように協力するよ。
でも、ツライ時は我慢しないで俺に言えよ。
俺はお前が性格悪いのも、
口が悪いのも知ってるし、
泣いてグチャグチャな顔になるのも、
知ってるからな。
カッコつける必要ないだろ。
どんなお前も嫌いにならないし、
受け止めるからさ」

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