最初のものがたり


息を整えて校舎を見上げる。

ツバサくん。

会いたい。

流れる生徒達の波にツバサくんを探す。

見つけられず時が過ぎていく中で、
少し冷静になった。

私、ここに来てどうしょうというのか。

まだ好きだって言う?

諦められないって言う?

ぎゅっと目を閉じた。

違う。

ツバサくんも私もそんな事を望んでない。

いつかまた友達に戻りたい、
そう願ってる。

今、会ったら困らせる。

ツバサくんを困らせたくない。

笑っていて欲しい。

どこをどう歩いて来たのか記憶がないまま、
いつもの公園のベンチに座ってた。

良かった、また困らせないで。

気がつくと涙が出てた。

あーあ、また泣いちゃった。

―1人で泣くな―

勇磨の声が聞こえる気がした。

そうだね、もう泣くのはやめよう。

いつか友だちとして、また会いたい

ふと携帯が目に入り、
チカの作ってくれた動画を思い出した。

「見てみるか」

動画を再生した。

優しい曲が流れる。

(初めての恋に心踊る幼い日々 、
何もかもがキラキラしていた。)

中学時代の私の写真が、
次から次へと流れる。

ツバサくんの姿を見てる私。

ツバサくんと笑顔でポーズしてる写真 。
体育祭 遠足、ツバサくんの横で笑ってる私。

初めは保護者みたいに。

いや、姉かな。

最終的にはストーカーみたいになってたかな。

卒業式 涙を堪えて
ツバサくんと握手してる私

そーだ、私って、
ツバサくんの前では泣かなかったし、
友達の前でも泣いた事なかった。

勇磨の前で初めて泣いた時は、
その後、ものすごく恥ずかしかったもんな。

(新しい日々にあなたを忘れてしまえたらいいのに。会えない分だけ恋しさも募る。私だけ進めない)

高校生になった私の写真が流れる。

入学式 チカと行った遊園地 。教室 球技大会 。

勇磨と教室で談笑してる写真。

勇磨と帰る後ろ姿。

チカ、いつ、こんな写真を撮ったのかな。

思わず笑みがこぼれる。

(薄れる想いに怖がらないで 。新しい恋がすぐ近くにあるのに)

チカのメッセージが記されていた。

「誕生日おめでとう、ナナミ。
新しい恋を、早く見つけて」

最後の写真は観覧車

あれ、これはこの前、勇磨と乗ったやつ!

勇磨に意地悪されたんだったな。

だけど夕陽がきれいだった。

次に勇磨が映った。

動画だ。

え、なんで勇磨が?

「ナナ、誕生日おめでとう。
誕生日の日にまた夕陽を一緒に見れたら、
俺は黙って待てる気がする。
なんて冗談だよ。
ナナはナナのままで好きにしていいんだ。
友達だからとか相手を困らせるとか
考え過ぎて自分を抑えなくていいんだよ。
好きなら奪っちゃえよ。
俺は応援する」

俺は応援する...。

いつも応援してくれる、勇磨。
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