社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 どう誤魔化そうか考えていると、陰の薄い経理部の部長まで、珍しく駆けつけてきた。
 部長はゴールデンレトリバーの写真――愛犬だけか、心の安らぎにして、生きがい。それをお守りのように携えている。

 ――そこまで要人は危険人物なの?

「倉地さんは、仁礼木社長とどういう関係かねっ!?」

 部長は涙目、課長は計算機に指を置いたまま、石像のようになって動かない。
 廊下はざわついたままだし、愛弓さんは泣いてるふりをして、うるさいしで、仕事がすべてストップしてしまった。

「倉地!」

 そんな中、冷静にいられたのは、湯瀬(ゆぜ)さんだけだった。
 ちょうど経理課前の廊下を通りかかったらしく、騒ぎを聞きつけ、経理課の中へ入ってきた。

「大変なことになったな。とりあえず、経理課から出たほうがいい」
「そうですよね……」

 ここにいても、愛弓さんが泣くふりをして、騒ぎを大きくし、混乱するだけだ。
 困った顔をした私を見て、愛弓さんは勝ち誇った顔をし、また婚約者を奪われたと、おおげさな演技してみせる。
 ずっと、この繰り返しだった。
 なにが起きたのか知りたがる野次馬が集まり、迷惑になっている。

「ほら、倉地。早く……」
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