社長はお隣の幼馴染を溺愛している
　湯瀬さんが私を誘導するのを見た愛弓さんが、ここぞとばかりに声を張り上げた。

「倉地さん、逃げるの？　逃げる前に、婚約者を奪って、私を傷つけたことを謝ってほしいわ」

　集まった人たちから、嫌な空気が流れる。
　事情を知らない人が多いため、私が婚約者を奪った女という目で見られ、居心地が悪い。

「早く謝りなさいよ！」

　愛弓さんは要人の婚約者を公言していただけあって、周囲の味方を得て、自分が正しいというように、堂々とした口調で私に謝罪を要求する。

「やめろよ」

　湯瀬さんが間に入っても、愛弓さんが引く様子はない。
　ドアの前は塞がれ、出ようにも出られなくなっていたところに、見かけない顔の男の人が現れた。

「謝罪の必要はありません」

　湯瀬さんは誰なのかわかるらしく、名前を呼んだ。

「朝比(あさひ)さん」
「どなたですか？」
「社長秘書の朝比さんだよ」

　黒髪に黒目、長身は高く、筋肉質。秘書というより、ボディガードのような雰囲気の男性だった。
　そういえば、男の秘書がいると、要人が言っていたような気がする。
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