社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 社長室の一件後、要人(かなめ)が言っていたように、社内メールで愛弓(あゆみ)さんの交友関係が明らかにされた。
 でも実のところ、沖重(おきしげ)で働く人々が知りたかったのは、愛弓さんより、私と要人の関係だったようだ。

『婚約はしているのでしょうか?』
『いつごろ、ご結婚ですか?』
『やはり、仲人は宮ノ入(みやのいり)社長夫妻か、八木沢(やぎさわ)常務夫妻でしょうなぁ』

 などなど、役員たちが訪れ、そんな気の早いことを言い出す始末。
 渦中の人である私が、経理課へ戻れるわけがなく、朝比(あさひ)さんの雑務を手伝い、一日の仕事を終えた。
 秘書課の方々は、すでに要人のひどさ……ではなく、扱いの難しさを嫌というほど理解しているらしく、むしろ私に同情的だった。

倉地(くらち)さん。もらい物の美味しいお饅頭があるの。お茶にしましょ」
「大変ね……。仁礼木(にれき)社長に巻き込まれて……」
「幼馴染とか、もはや罰ゲームよ」

 秘書課のお姉様たちは、私の長年の苦労を察し、労ってくれた。
 そして、私は人が少なくなった頃、こっそり裏口から退社したのだった。

「ひどい目にあったわ……」
「ん? なんかあったか?」

 トラブルは日常茶飯事、攻撃性のかたまり、あれくらい朝飯前の要人は、疲れ切った私を眺めて、首を傾げていた。

「今日一日、事件だらけだったでしょ? いったい要人は、どんな世界で生きてるの?」
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