社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 階段を駈け上がり、部屋へ飛び込む。
 一階からの煙が、要人の姿を呑み込み、見えなくなった。
 木造のアパートのせいか、火の勢いが強く、階段部分にまで、火の手が延びる。

「要人っ!」

 部屋から出てきた要人は、畑のそばにあった大きな木に飛び移り、軽い身のこなしで、地面に降り立つ。
 そういえば、昔、あの木にひっかかった帽子を要人が登って、取ってくれたことがあった。

「ほら、志茉」

 帽子をとってくれた時と同じ、満面の笑みを浮かべた要人は、部屋から持ち出した物を手渡した。
 それは、私が玄関に飾ってあった両親の写真とアルバムだった。

「要人……」
「これ、志茉の一番大事な物だろ?」

 戻ってきた要人のシャツを掴んで叫んだ。

「要人が一番大事に決まってるでしょ!」

 私が泣き出し、要人の体にしがみつくと、要人は驚いた顔をした。
 そんな驚くことじゃない。
 要人は私にとって、なくてはならない存在なのだから。

「志茉、ごめん」
「……二度と、危ないことしないで。命だけはどうにもならないのよ!」
「わかってる」

 私たちは水に濡れたシャツも気にならないくらい、お互いを痛いほど抱きしめていた。
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