社長はお隣の幼馴染を溺愛している
古民家
 火事の後、要人(かなめ)仁礼木(にれき)の家には戻らず、私を連れて、車を郊外まで走らせた。

「要人、どこへ行くの?」
「仁礼木が知らない場所へ行く」
  
 まるで、駆落ちみたいなセリフを要人は口にする。
 アパートの火は、応援の消防車がすぐに駆けつけ、火事はまもなく消し止められたけど、家財道具は水浸しになってしまった。
 私以外の住人が住んでいた部屋も助かったけど、この先、このアパートで暮らし続けるのは無理そうだと話していた。
 今日は近くのホテルへ泊まり、明日から引っ越し先を探すとか――
 
「誰も怪我がなかっただけ、まだ救いだったわね……」

 怖い顔をして運転する要人に、そう言ったけど、なぜ誰もいない部屋から出火したのか、謎のままだった。
 住人たちが言うには、全員たまたま外へ出かけていたタイミングだったらしい。
 あまりに、タイミングが良すぎるのではと、アパートの外で話していた。
 つまり、この火事は放火の疑いがある――

「火をつけたのは、俺の母親だな」 
「要人、落ち着いて。さすがに、おばさんもそこまではしないわよ」
「落ち着いていられるか。命を狙われたんだぞ! 一緒にいなかったらどうなっていたか、わからない!」

 要人の声は震えていた。
 ハンドルを握りしめ、前方を睨みつけていた。
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