社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 そういえば、要人は宮ノ入グループの部長にまで、昇進し、今は社長。
 そもそも、仁礼木家でもお金に不自由したことのない要人。
 一般の感覚とは違う。

「そうね……」

 今思えば、要人を要人としてしか扱わず、社会的肩書きと収入まで、考えてこなかった。
 漠然とした感覚で、お金持ちと思っていただけ。
 そもそも、要人を結婚相手として意識したのも、ここ最近のこと。
 これから、同じ家に住み、新しい生活になるのかと思うと、なんだか要人がいつもと違って見えた。

 ――な、なんで、ドキドキしてるの? 要人相手に!

 この動揺を隠さなくては、要人に悟られてしまう。

「わ、私もお風呂に入ってくるわ。じゃ、じゃあね」
「そうだな。俺はちょっと仕事するから、先に休んでいいぞ」

 要人は忙しいらしく、私の動揺に気づかなかったようだ。
 ホッとして、私はうなずいた。

「うん。要人、ありがとう」

 要人は笑っていた。
 きっと私の心なんか、お見通しなのだろう。

「でも、私をからかってこないのは、珍しいわね」

 そう思いながら、浴室へ向かう。
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