社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 浴室のドアを開けると、そこは木の香りに包まれていた。
 外観からは想像できない総檜造り、たっぷりのお湯からあがる白い湯気が、顔にかかる。 

「ここは温泉ですか……?」

 檜の香りの中、柔らかいお湯に浸かる。
 お肌に良さそうなお湯と、癒しの空間に、頭がほうっとなった。
 外から、カエルの鳴き声と虫の音――要人は忙しくて、時間が惜しいはずなのに、私のためにこの場所にしてくれたのだ。

「……要人はなんでも私のことわかるのね」
 
 望むものも、欲しいものも、好みさえも。
 要人のことをもっと知りたいと思う。
 これからは、逃げずに向き合って――そんなことを思った私の目の前に、要人の好みと思われるスキンケアが一式そろっていた。
 ボディクリームや化粧水だけでなく、シャンプーなども甘いバラの香りに統一されている。

 ――前言撤回。

 私の好みはさっぱり柑橘系。クールな私をイメージしたくて、あえて甘すぎる香りを避けていた。

「こういうのが、好みだったわけね」

 それに下着は豪華なレース付き。 
 パジャマはワンピースタイプの長い裾のもので動きにくい。
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