社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 なにかあった時のために、段取りをすべて終えてから、電話を切った。
 
「家族か……」

 リビングのテーブルには、アパートから持ち出したアルバムがあった。
 倉地家の家族写真だ。 
 ページをめくっていけば、小学生の頃の自分がいる。
 作り笑いばかりだった仁礼木の写真は、雑誌の撮影のようで、見る気にはなれないが、このアルバムとは違う。
 志茉たちに母は嫉妬し、俺は焦がれた。
 焦がれた場所へ俺を迎え、居場所をくれたのは、志茉だった――

 ◇◇◇◇◇

 仁礼木(にれき)家の次男に生まれた俺のほうが、兄より不自由だった。
 母に対し、冷たく扱いづらい兄より、下の俺を構うようになったからだ。
 
「要人さん、今日は家庭教師の先生が来ますからね。この間みたいに、近所の子供たちと遊んじゃだめよ? 要人さんのレベルに合った学校のお友達がいるでしょ」

 習い事は毎日あった。
 バイオリン、スイミングスクール、絵画教室、英会話と他の外国語をいくつか。
 それが終われば家庭教師と勉強。
 自由時間はなく、決められたスケジュールどおり、行動するのが母の望みだ。 
 それでも、わずかな隙を見つけ、抜け出すこともあった。
 性格的に母の言いなりになるわけがなく、家政婦の八重子(やえこ)さんから、両親の予定を聞き出せば、家から簡単に出られた。
< 126 / 171 >

この作品をシェア

pagetop