社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 若い夫婦は昼食を作っていたらしく、エプロン姿だった。 
 志茉は元気よく手を挙げた。

「はーい! かなめ、よかったら、ごはん食べていく?」
「呼び捨てかよ」

 そこは、かなめお兄ちゃんか、かなめ君だろう。
 つくづく、生意気な子供……俺もだが。生意気なのはお互い様かと、思い直した。

「畑の野菜で作ったご飯だよ?」
「いや、俺は……」

 そこに、足を踏み入れてはいけない気がした。
 明るくて、幸せそうな家族の姿は、理想のままでいてほしい。
 俺がその中へ入ったら、壊れてしまう気がした。

「かなめ、行こっ!」

 強引に志茉が俺の手を引き、アパートの二階へ連れていく。

「あら、志茉。お友達?」
「そう!」

 いつの間に友達になったんだと思いながら、自分の手を握る温かい手を振りほどけず、アパートの部屋へ入った。

「まあ、可愛らしい男の子ね」
「引っ越し先の友達第一号だな! 志茉、よかったなぁ」
「うん!」

 来客用の座布団は、手作りで刺繍入り。
 裕福ではなかったけど、外から見た光景の続きが、そこにはあった。

「名前はなんていうんだい?」
「仁礼木要人です」
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