社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「志茉さん。家を見て驚かれたでしょう」

 車に引き続き、と八重子さんは付け加える。

「要人坊っちゃまから、内緒にしておいてくれって頼まれてしまって、志茉さんに言えなかったんですよ」

 八重子さんは申し訳なさそうにしていたけど、要人は私を驚かせたかったのだと思う。

「この家を要人が、買ってくれて嬉しかったです」
「志茉さんがお喜びになられたのなら、よろしゅうございました。さ、お味噌汁が冷めますからね。食事にいたしましょう」

 お味噌汁のいい香りがして、八重子さんお手製の漬け物、土鍋の炊き立てご飯、卵焼きに塩サケ。お昼ご飯なのに、メニューは完全に朝ご飯。
 私たちが起きるタイミングに、合わせて作ってくれたのだろう。

「志茉さん、今日から、この家の家事は、私がやりますからね」
「でも、八重子さんは若い家政婦に任せて、仕事を辞めるって言ってませんでしたか?」
「ええ。仁礼木家を辞めて、坊っちゃまに雇っていただきました。一人ですからね。働いていないとボケてしまいます」

 にっこり微笑んだ八重子さんの顔を見ていると、なんだか、ホッとする。
 要人だけじゃなく、私にとっても、八重子さんはおばあちゃんみたいなものだ。
< 136 / 171 >

この作品をシェア

pagetop