社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「八重子さんがいてくれたら、心強いです。仕事もあるし……」
「志茉は当分の間、仕事は休みだ」

 階段を降りてきた要人は、欠伸をしながら言った。

「休みって……」
「要人坊っちゃま、おはようございます」
「ああ。おはよう」
 
 用意された朝ご飯の席に、要人が座った。
 
「あの火事の後で、出勤できるわけないだろ」
「放火の疑いがあるそうですよ……。警察の方が調べているところで、まだはっきりしておりませんが、危険でしょう」

 八重子さんはそう言って、熱い味噌汁を要人に渡す。
 さすが長年、仁礼木家の家政婦を勤めてきただけある八重子さんの味噌汁。ダシの香りもばっちりで、完璧な味噌汁だった。
 味噌汁でホッとしたのも束の間。
 物騒な話を聞くことになろうとは、思ってもみなかった。

「本当に放火なの?」
「……ああ」

 要人は多く語らない。

『火をつけたのは、俺の母親だな』

 その言葉を思い出し、背筋が寒くなった。
 仁礼木のおばさんは、感情的になりやすく、ヒステリックなところがあったけど、まさかという気持ちのほうが大きかった。
< 137 / 171 >

この作品をシェア

pagetop