社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 私の追及が始まる前に、八重子さんはデザートを持ってきてくれた。

「志茉さんが食べてみたいっておっしゃってたヨーグルトムースですよ」

 透明なカップに入って、上にはフルーツが飾られたデザートは、蜂蜜を使った甘さ控えめのムース。水切りヨーグルトと牛乳、ゼラチンがあれば作れると、八重子さんから聞いていた。
 レシピを教えてもらおうと思っていたところだった。

「美味しい……」
「レシピは日誌に書いておきますからね。」

 八重子さんは業務報告として、家政婦日誌をつけている。
 仁礼木のおじさんの子ども時代から、ずっとつけているそうだ。
 要人たちは閻魔帳と呼んでいて、悪さをすると備考欄に残るとか。
 頭が上がらないのも無理もない。

「さてと。俺は宮ノ入(みやのいり)グループ本社に行ってくる」

 要人は食事を終えると、すぐに立ち上がり、ジャケットを羽織る。
 宮ノ入グループ本社に行くけど、休みだからか、服装はほとんど私服に近い。
 裏口から入って、誰かと会うのかもしれない。
 深く聞いてはいけない気がして、私は黙ってうなずいた。

「それじゃあ、いってくる」
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