社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「うん、いってらっしゃい」 

 私が大人しくしているのを見て、要人は機嫌が良くなった。

「なるべく、早く帰るからな!」
「そ、そう……」

 ――要人の無邪気な笑顔が怖い。

 ああいう顔をした時の要人って、なにか企んでいることが多い。

「なにをするつもりよ」
「志茉さん。難しいことは要人坊っちゃまにお任せして、志茉さんはのんびりされたらいいじゃありませんか」

 八重子さんは慣れているのか、どんっと構えていて、まったく動じていない。
 でも、のんびりと言われてもなにをしたらいいか、わからなかった。

「掃除でもしようかな」
「掃除は業者に頼んでありますよ」
「じゃ、じゃあ、夕飯の買い物を」
「要人坊っちゃまが、外に出ないようにおっしゃってましたよ」
「食事の支度を手伝います!」
「私の仕事ですから、いけません」

 私と八重子さんの攻防戦は、私の全敗で、要人はわざと八重子さんを家政婦として雇ったのではと思うくらい、八重子さんに隙がない。

「リビングでお茶をどうぞ。テレビでもご覧になっていてください」

 言われるがままに、リビングのソファーにちょこんと座り、テレビをつける。
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