社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「徹底的にやれって……。母親よ?」

 要人は味噌汁を飲み、キュウリを箸でつまんだ。

「志茉は倉地のおじさんとおばさんに、愛情をたくさんもらって育ってきた。俺とは違う。だから、なにを言っても、きっと志茉にはわからない」
「要人……」
「わからなくていいんだ。志茉にはわかってほしくない」

 今まで要人が仁礼木家の内情を言わなかったのは、言いたくなかったからだ。
 私と結婚することで、全部捨てるつもりでいる。

「汚くて、暗い気持ちを共有するのは、俺と一緒に育った兄さんだけで十分だ。だから、兄さんも呼んである」
「わかったわ」

 要人のお兄さんは仁礼木総合病院を継いで、外科医をしている。
 病院近くにマンションを購入し、住んでいたはずだ。
 もしかしたら、要人のことを止めてくれるかもしれない。

「兄さんは俺よりも母親を嫌っている。だから、絶対に助けない」

 私の心を読んだかのように、要人は冷たく言い放ったのだった。 
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