社長はお隣の幼馴染を溺愛している
仁礼木家
 日曜日の午後は、とても天気が良く、雲一つない青空が広がっていた。
 梅雨前で、少し空気の中に混じる湿気を感じる。
 私が住んでいたアパートは、まだ形を残しているけど、黒く染まり、痛ましい姿をさらしている。
 アパートの住人たちはすでに引っ越し、誰もいない。
 私だけでなく、他の人も住めなくなったのだ。
 でも、今ならわかる。
 
 ――おばさんは、私だけでなく、お隣のアパートの住人全員を嫌っていた。

 裕福でないのに、幸せな人々。
 満たされているはずなのに、彼らより幸せだと思えない自分。
 だから気に入らず、自分のそばから、いなくなってほしいと願っていた。
 ずっと消えてほしいと……
 天気が良く、風は冷たくないはずなのに、寒く感じた。

志茉(しま)? 気分が悪くなったか?」
「あ……。ううん。本当に燃えてしまったんだなって思って……」
「悪い。見たくなかったよな」
「そんなことない。ちゃんとアパートにお別れしたかったから、見れてよかった」
「そっか」
 
 要人だって、平気じゃないはずだ。
 思い出が残るアパートが燃えて悲しいのは、それだけ私が幸せだったから。
 そう思うようにした。
 そんなアパートの隣に建つ仁礼木家は、芝生の草が伸び、庭木は緑の葉を増やしている。
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