社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 お互い挨拶をして、雑談をしていると、外で車が止まる音がした。
 車のドアを閉める音がしたかと思ったら、ドタドタと荒々しい足音をさせて、居間に駆け込んできた。

「清臣さん! 要人さん!」

 駆け込んできたのは、仁礼木のおばさんで、服はスウェットのセットアップ、髪は白髪混じりで、化粧はしていなかった。
 一瞬、誰かわからなかった。
 それは、梨日子さんも同じだったらしく、目を見開き、驚いていた。
 清臣さんの服の裾を握り、『どなたですか』と尋ねようとしていたのを途中で止めたような仕草だった。

「逃亡犯が帰宅したか」
「犯人は現場に戻るって本当だな」

 清臣さんと要人は、冷たい目をし、まったく動じてない。

「実家に匿ってもらっていたようだが、さすがに限界だったか」

 清臣さんはふっと口の端をあげて笑った。
 その敵を作りそうな顔は兄妹だけあって、要人によく似ている。

「実家の製薬会社の株を手に入れるのは大変だった」

 要人はソファーに腰掛け、足を組み、悠然とした態度で、おばさんに語る。
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